早読み行政誌

新旧住民の軋轢(2012年11月5日〜11月9日号)

地方行政

【11月5日号】 財務マネジメントはなぜ必要か、そうした点を論じていく前に、自治体についての認識を擦り合わせておきたい。そのために、資産規模による自治体と大企業の規模比較をしてみよう。最大規模は東京都で、普通会計に属する資産だけで34兆円となっている。トヨタの連結会計ベースの資産規模は30兆円程度であるから、東京都単体でも世界中に展開しているトヨタを軽く超える巨大資産を有していることになる。次いで政令指定都市である大阪市が13・5兆円、横浜市が10・8兆円である。これらは連結会計ベースの資産規模である。民間企業であれば、東京電力(13・2兆円)、日産自動車(10・2兆円)にそれぞれ匹敵する。当然ながら、こうした資産は税金や地方交付税などの自己資金によってのみ取得されたものではない。つまり、多額の地方債残高がある。東京都で6・8兆円、大阪市で5・1兆円、横浜市で4・2兆円ほどになる。これだけ資産・負債の規模が大きいと、金利変動によって利払いが増減し、事業に投入できる資金が数十億円単位で変動してしまう。だからこそ、想定される歳入額をベースに事業ごとの予算を割り振っていく「財政」的な仕事だけでは、円滑な自治体経営はおぼつかなくなり始めている。(月曜連載「自治体の財務マネジメント戦略」)

【11月8日号】 物理的な問題や課題なら解決策が見いだせるが、感情による問題の解決は難しい。「池田市には地域間格差はない。住民力に格差はない」。そう訴えて発足した地域分権制度であるが、地域間格差はなくとも、住民間の意識格差があり、軋轢が生じているところも出てきている。「新住民と旧住民」の軋轢である。住民間の問題は池田市に限った現象ではないが、新旧住民が混在している中での軋轢と、同じ校区の中でも旧住民の多い地域と新住民の多い地域との軋轢がある。ここで言うのは後者の方だ。新と言っても昭和20〜30年代のことだから、もう半世紀もたっている。しかも旧といわれる地域にも新しい人々が移り住んで混在している。それでも「我々は新住民で、彼らは旧住民」と決め付けようとするのである。徹底した話し合いを求めたが、いまだにその溝は埋まっていないようだ。あくまで小学校区単位を1地域と考えての制度であることを理解してほしいのだが、お互いの感情的な部分がクリアにならなければ、解決の道筋は見つからない。「校区単位で、地域のことについては地域の皆さんの話し合いで進めていっていただきたい」とお願いする以外になかった。(木曜隔週連載「地域分権制度から考える『国のかたちとコミュニティ』」)

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内外教育

【11月6日号】 橋下徹大阪市長が府知事だった昨年秋、首長が教育行政に直接介入する大阪府教育基本条例案を提起し、教育委員会の在り方をめぐる議論が一気に熱を帯びてきた。10月末に早稲田大学で開かれた今年の日本教育行政学会は、教育委員会制度を正面に据えた。コミュニティ・スクールを全市で展開する福岡県春日市教委、東京都三鷹市教委の代表者らによる議論は、現行制度下でも活性化は可能という認識から展開されている。戦後の教育理念を担った組織制度だけに、その議論は、今しばらくさまざまなレベルで掘り返されながら熟度が高まることを期待したい。

【11月9日号】 巻頭のインタビュー「教育長はこう考える」には、全国各地の教育長が登場する。今回は人口3000人の岩手県普代村の熊坂伸子教育長。岩手県内で唯一の女性教育長である。同県滝沢村助役を務めた経験で、「教育はやったことがない」というが、学校統合をめぐる村内の意見集約などで手堅い手腕を発揮した。「普代村の15歳の目指す姿」という教育目標設定の際には、地域の人や保護者、中学生を交えてワークショップを開いて決めた。津波被害に遭った岩手の過疎地で、充実した教育行政が展開されている。

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厚生福祉

【11月6日号】 新シリーズ「重要労働関係法令の改正とそのポイント」がスタート。9月に閉幕した通常国会で成立したいくつかの労働関係法令について、特定社会保険労務士の本間邦弘氏が3回にわたり解説する。1回目は、今後ますます重要性が増すと予想される労働契約法を取り上げた。「進言」は徳島県病院局長の黒川修平氏。地域の医療を牽引するリーディング・ホスピタルとして10月に新たに生まれ変わった県立中央病院について紹介している。「ワンコイン健診の現場から」vol8は「なぜ、毎月、体重測定に来るのか?」。東京都昭島市から中野まで毎月、わざわざ電車に乗って体重測定に来る〝昭島のおっちゃん〟に理由を尋ねてみた。その答えに、ヘルスケアという対人サービス事業における重要な鍵があった。

【11月9日号】 巻頭言は全国社会保険協会連合会理事長の伊藤雅治氏の「2025年の国民皆保険」。皆保険制度の今後の在り方について、公的医療保険で提供する医療の基本理念をどうするか、国民的議論を開始すべき時期だと訴えている。特集「多様化する保育所と経営」6回目は、保育所経営にあたってクリアしなければならない国の施設基準や認可要件についてまとめた。企業年金の一つ、厚生年金基金制度改正について、厚生労働省が原案をまとめた。改正法の施行から10年後に制度を廃止し、国の代行部分が積み立て不足に陥っている「代行割れ」基金は原則5年以内に解散させるとの内容。これまで「受給権保護」を理由に基金の解散を認めてこなかった厚労省の大きな方針転換だが、関係者からは不満や反対の声が強く、難航しそうだ(「厚年基金、10年かけ廃止」)。「インタビュールーム」は、東北大学総合地域医療研修センターの加賀谷豊副センター長。被災地域の医療復興と、災害医療を担う人材育成に貢献しようというセンターの活動内容を紹介する。

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税務経理

【11月9日号】 「わたしの苦心」欄は、「震災対応業務から復興対応・通常業務へ」と題して、岩手県の取り組みを紹介。同県では、甚大な被害を受けた東日本大震災から速やかに立ち直るべく、復旧復興へと取り組んでいる。税務課では2011年度、災害からの復旧復興のため、税制面での方策を取ってきたが、今年度からは、震災対応業務から通常業務へ移行していくことが必要となっている。通常業務が手薄とならざるを得なかった2011年度の業務を本来のレベル以上に持ち上げて、公平公正な税務行政を確立し県民の信頼を得、まだまだ続く復興業務に対応していくことが税務職員の使命と考えている。今後の課題として、復興の進展に応じて増加する業務量の問題があるが、県税務課では「業務量増大が見込まれるものの、職員の増員は非常に厳しい情勢の中、業務および配置の効率化の検討を始めるなど、各種方策を検討し業務に対応できる体制を構築していきたい」としている。

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金融財政ビジネス

【11月5日号】 「共通する課題は金融の構造改革」と題して、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国(旧ユーゴ)が分裂して誕生した、スロベニアなど3カ国の金融・経済動向について分析した記事を掲載した。同記事は「旧ユーゴは1991年のスロベニア、クロアチアの独立をきっかけに分裂した。スロベニアは2004年に欧州連合(EU)に加盟、07年には単一通貨ユーロを導入し、クロアチアは13年からのEU加盟を確実にしている。他方、最後まで『ユーゴ』の名にこだわり、ユーゴスラビア連邦共和国となったセルビアとモンテネグロのうち、モンテネグロが06年に独立、セルビアは今年、EU加盟候補国となった。これらの国々は市場経済体制への移行と国家の分離という二重のショックを体験した点でユニークだと言える。発展・移行段階にある旧ユーゴの中核3カ国だが、08年のリーマン・ショック以降は金融面を中心に綻びが目立ち、それぞれ政権交代をこの1年間で経験している。これらの国々に関する情報は日本にいるとなかなか入手しづらく、筆者が実際に訪問してみると、これまでとはかなり異なる印象を受けた。本稿では、各国で何が起きているのか見ていく」としている。

【11月8日号】 「バルクセールは『究極の事業再生』」と題して、広島市信用組合の山本明弘理事長へのインタビュー記事を載せた。山本理事長は不良債権を時価でサービサー(債権回収会社)に一括して売却する「バルクセール」について「一見、(お取引先の)切り捨てと思われるが、バルクセールは究極の事業再生であり、金融機関も不良債権のオフバランスにより経営資源を営業に集中させることができる」有効な施策であると強調した。また、地道に顧客を訪問することが預金の獲得や事業性貸し出し、住宅ローン等の個人向け貸し出しにもつながり、今後も金融機関の本来業務である預金・融資に特化した「直球一本」の経営を進めていく考えを表明している。

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